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2008/09/02

「食堂かたつむり」 小川糸

食堂かたつむり食堂かたつむり
(2008/01)
小川 糸

商品詳細を見る

★★☆☆☆

書店でこの本がベストセラーとして平積みにされているのを見かけ、図書館に入荷されていたので借りてみました。
すごく残念ですが、相性悪かったです。
読んでいて、設定と展開に無理と強引さと不自然さを感じてしまい、それがどうしても見過ごせなかったのです。
でも読後感は悪くなかったし、料理へのこだわりと食に対するメッセージは伝わってきました。

倫子は、料理店のバイトから帰ってきて、恋人と暮らすアパートがもぬけの殻になっていることを知ります。
恋人はもちろん、飲食店の開店資金にと貯めたお金や、家財道具などすべてを一度に失った倫子は、失意のあまり自らの声までを失い、アパートの鍵を大家に返却したその足で、母の暮らす山あいのふるさとへ10年ぶりに向かいます。
母が畑に埋めてあるであろうお金をこっそり持ち逃げしようとした倫子ですが、母に見つかってしまい、交渉の結果、家の物置小屋とお金を借りて、その場所で食堂をオープンさせてもらうことに。
食堂かたつむりと名付けたその店には決まったメニューはなく、事前に客と面接(面接という言葉もあまり好きじゃないな)をしたうえで客の好みや要望に基づいてメニューを考え、一日一組だけをもてなします。
食堂はおおむね順調に営まれ、この食堂で食べた人は願い事や恋が叶う、という噂が徐々に広まり…というお話です。
まず全てを失った倫子が、声が出なくなってしまうほどにショックを受けているにもかかわらず、とても行動力があることに戸惑います。
もっと何も手につかない状態であってもおかしくないと思うし、ダメモトでも恋人のことを探そうとしないかなとも思うのですが、倫子にはそんな考えはありませんでした。
そして、持ち逃げされる悲しみを知っているはずの倫子が、不仲とはいえ母親のお金を持ち逃げしようとする発想にも驚きです。
声が出ないという状況にも焦る様子もなく、苦痛をそれほど感じていないという気持ちもよく分かりませんでした。

また、一日一組の客をもてなすというスタンスは、料理の才能と経験とある程度の箔や知名度がなければ成り立たないのではないかと思うのですが、いろいろな飲食店でアルバイト経験があるだけという25歳の倫子に、それに見合う力量があるのか謎でした。
理想的なことかもしれないけど現実味がなくて、採算がとれ母に借りたお金を返していけるのか、周囲の店がどんどんつぶれている山あいの村に客は来るのか、いろんな点で不自然さを感じました。
必要最低限の調理道具しか置かないとのことで、電子レンジや炊飯釜などを持っていないのに、牡蠣を開ける専用のナイフや、バーミックスはあるというのも不思議。

これがふんわりとした不思議な物語や童話のようであれば、そのようなことを細かく気にしないで済んだかもしれません。
でも、このお話にはとても現実的な場面や、胸が悪くなるような直接的表現がところどころあって、不思議な物語として読むことができませんでした。
不自然さや引っかかる部分を、この話の味として受け入れることができませんでした。

出来事のひとつひとつに対する倫子の心の動きも、線としてつなぐことができませんでした。
共感できるかは別として、心がどのように動いているのか、その流れが見えないと読みにくいです。
たとえば、いろいろ手助けしてくれている熊さんに対して、ある場面で、「熊さんが望むなら、一回くらいキスしてあげてもいいよ、と思いえるくらいの(後略)」というシーンがあって、倫子は既婚者の熊さんをどう思っているのか、熊さんとの関係も宙に浮いた感じに思えました。
また、「それは、おなかを痛めて生んだ我が子を、生きたまま海に沈めるような苦しさだった。」と言う表現が出てくるのですが、出産経験のない倫子がこんな比喩を使うのは違和感があって、逆に浅く感じました。

そんなこんなで、すんなり心に入ってこないまま読みすすめることになったのが残念です。

後半は、話が大きく展開していき、母(倫子は「おかん」と呼んでます。「東京タワー」を連想しちゃいます 苦笑)との関係についてがクローズアップされていきます。
母娘の関係が、あのような形で修復されるのは悲しいことだし、正直言ってありがちな帰結とも思いましたが、流して読むことはできなかったです。
話に引き込まれていったし、ウルッときたのも事実です。
でもやっぱり、手放しにおもしろかったと言えないのは、全体を通して出来事の背景や理由がよく分からず、説得力がなかったからです。

※後半のネタバレ部分を反転させています。
エルメスを食べることは、やっぱり納得できませんでした。
食べるという行為は命をいただくということであり、感謝の気持ちで料理し、食さねば、というのは分かります。
でも、今までも倫子は、その精神を持って料理してきたはずです。
ペットとして飼ってきたとしか思えないエルメスは、食用として育てたのとはやはり違うのではないかと思うのです。
そもそもおかんは、食肉センターに送られそうになったところを引き取って育ててきたのですから。
自分がいなくなってはエルメスが悲しむから、エルメスにとってもそのほうが幸せ。
本当にそうでしょうか。
今後は倫子がエルメスを引き取って一緒に暮らしていくという選択肢はなかったのでしょうか。

そのことを含め、おかんの内面も理解できませんでした。
自分の意思と都合で倫子を産みながら、かわいがって育てず、名前の由来も正しく教えなかったのは、倫子があまりにかわいそう。
愛情がなかったわけではないだろうけど、幼い子どもにはその思いがもっと分かるように接さないと伝わらないと思います。
そもそもあの出生の秘密は何?

シュウ先輩も、自分から姿を消しておきながら、今になっておかんのことを忘れられなかったなどと言えるのか。

やっぱり、倫子に限らず、登場人物の内面が理解できないものが多すぎました。

とにかく書きたいエピソードを詰めに詰め込んで並べたせいかまとめきれていないし、人物造詣が甘くて、内面と行動の理由が出来事に伴っていない印象を受けました。
次作があるなら、詰め込まずにシンプルで丁寧に練られたお話を読みたいです。

一番よかったのは、赤カブをもらった農家に熊さんとでかけ、熊さんの母親が作った昼食をみんなで食べる場面でした。
そこは素直にいいと思えた場面でした。
あ行その他 | Comments(2) | Trackback(0)
Comment
No title
こんにちは。
食堂かたつむり、私も読みました。
いろいろな感想を見てきたのですが、
こちらのものが私には一番ぴたっとくる感想でした。

>とにかく書きたいエピソードを詰めに詰め込んで並べたせいかまとめきれていないし、人物造詣が甘くて、内面と行動の理由が出来事に伴っていない印象を受けました。

これには完全に同意します。

もやもやしたものを晴らしていただいたような気がします。
これからもたくさん記事をアップしてくださいね。

あと、リリィの籠、私も大好きです。
No title
>モモさん
コメントありがとうございます♪

感想を読み返してみたら、オブラートに包んで書いていたつもりが、思ったことをけっこうずけずけ書いていたので、ちょっとひやっとしました。
でも、すごく正直な気持ちで書いていました。

>もやもやしたものを晴らしていただいたような気がします。
とても嬉しいお言葉、ありがとうございます。

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