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2007/11/29

「千年樹」 荻原浩

千年樹千年樹
(2007/03)
荻原 浩

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★★★★☆

樹齢千年にもなろうかという、くすの木。
それほどの巨木には、何かが宿っているかのような荘厳さがあり、知らずと畏敬の念を抱きます。
そんな一本の大樹のもとで繰り広げられた、人間たちの生き様を綴った壮大な物語です。

くすの木の萌芽から最期までに渡る8編の連作短編で成り、それぞれの編の中でも、時間を飛び越えた異なる時代の物語が交互に綴られます。
その二つの時代が因縁のように交錯し、繰り返される人間の営みの連鎖に畏れを感じました。
また編どうしでも、現代にそこに住む登場人物のつながりがあって、人との関わりの横糸と、時代を通しての縦糸とが絡み合う、重厚感のある物語でした。

人の思いや願いは、時代を経てなお共通しているんだなと今さらのように思い知ります。
古い時代の話の多くは死に直面しているため凄惨で重く、現代の話の抱える痛みには心をえぐられ、あらがうことのできない奔流に飲み込まれるような戦慄を覚えます。
また、圧倒的な存在感を持つ巨木を前に、人の存在の小ささを知り、打ちのめされました。

樹木には、自らの遺伝子を存続するために木の実の量をコントロールする力があるという話も驚きでした。
新たな芽を咲かせるために小動物に木の実を食べさせるのですが、小動物が少ないと木の実を増やし、種まで食べつくされるほど増えると木の実を減らすというのです。
「人間は植物が好きだというが、たぶん植物は人間を嫌いだろう。きっと、いつかは人間の数もコントロールしようとたくらんでいるんだ。」
このさらりと書かれた言葉に、樹木の底知れない意思を想像して、圧倒され、よりどころのない不安を一層あおられました。
「萌芽」
はるか昔、追われた国司の親子がたどりついた樹海。
くすの木がその地に根ざすことになった始まりにして壮絶な物語です。
後にもたびたび登場する幼子は、やはり公惟の息子なのでしょうか。
一方の昭和五十年代、いじめられている中学生の雅也が、くすの木で首を吊ろうとします。

「瓶詰の約束」
戦時中、町が空襲を受け、逃げるなか、宝物を入れた瓶を持ち出した誠次。
一方、加奈子は雅也ら園児を連れて、くすの木の近くにタイムカプセルを埋めにやってきます。
ラストの思わぬつながりに胸が熱くなりました。

「梢の呼ぶ声」
昭和初期、心中を約束した男をくすの木の下で待つ女郎のきよ。
遠距離恋愛の恋人を、待ち合わせ場所のくすの木の下で待つ啓子。
ともに携帯電話など持たない時代で、同じ場所で相手をひたすら待つ女の思いが重なります。

「蝉鳴くや」
江戸時代、あらぬ理由により、くすの木の下で切腹することになった忠之助。
一方、中学校教師の義明が、鬱屈した不満を、くすの木にぶつけようとナイフを手にする話。
蝉の声に触発されるかのような荒々しい感情が描かれます。

「夜鳴き鳥」
追い剥ぎをして生きながらえる山賊のハチが、獲物にした女とその付き添い。
ハチは女に母親の像を重ね、根城のくすの木へ連れ帰ります。
一方、ヤクザの堀井に言われて、子分のケンジが岸本を埋めるための穴を掘る話。
木を育んできた土の生き物じみた湿った匂いと、得体の知れなさが迫ってきます。

「郭公の巣」
舅姑らに生んだばかりの女の子を「流す」よう命じられたトミの行動とは。
「子盗りの木」という名称のルーツは、ここで語られる因習にもあるような気がします。
一方、四人家族がドライブの途中で偶然くすの木をみつけ、そこに足を運ぶことになった話。
カッコウの生態の話が恐ろしい想像をさせて、身がすくみました。

「バァバの石段」
真樹の祖母がもうすぐ亡くなろうとしている。
祖母の若き日の物語と、真樹が見つけた祖母の手紙が交差します。
このお話のあたたかさに一番ほっとできました。

「落枝」
侍たちに連れ去られたクラを助けようと、追いかけた千代丸のもとに落ちてきたくすの木の枝。
一方現代では、くすの木の落枝にクレームがあがって、人間の都合でくすの木の伐採が決まり、市役所に勤める雅也がその最期を見届けます。
大切な何かを守り、託そうとするのは、人も木も同じであると言っているかのようです。
ラストには新しい芽吹きの予感があり、こうして受け継がれ、繰り返される生滅と流転の果てしなさに畏怖を感じました。
あ行その他 | Comments(0) | Trackback(0)
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