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2009/12/10

「きりこについて」 西加奈子

きりこについてきりこについて
(2009/04/29)
西 加奈子

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きりこは両親の愛情を浴びて育ったため、自分がぶすだなどと思ってもみなかった。小学校の体育館の裏できりこがみつけた小さな黒猫「ラムセス2世」はたいへん賢くて、しだいに人の言葉を覚えていった。ある事件がきっかけで引きこもるようになったきりこは、ラムセス2世に励まされ、外に出る決心をする。夢の中で泣き叫んでいた女の子を助けるために…。猫を愛するすべての人に最新書き下ろし長編小説。
「BOOK」データベースより


★★★☆

今まで数冊読んできた西さんの本の中で、一番コミカルでユーモラスな文体でした。
なにせ、あの方が書かれた文章なので(笑)

美男美女のパァパとマァマの間に生まれたぶすな女の子、きりこ。
家系の難点をそれぞれもらい受けた奇跡のような顔、体躯なのです。
それでもきりこはパァパとマァマに存分に愛され、「可愛い可愛い」と言われ続けたので、自分を可愛いと信じて疑わない。

そんな容姿であれば、さぞかし幼い頃からいじめられっ子だったのだろうと思っていたら、この物語は一味違います。
というのも、人間は、十一歳くらいまで「きょとん」とし「うっとり」と酔った状態だという。
きりこの「うちは可愛いねん」という思い込みと自信たっぷりの様子に、半ば洗脳されたクラスメイトたちは、きりこに心酔し、そのお姫様的振る舞いを自然に受け入れていたのです。
現実には、そんなことがあり得るのかなぁと訝る気持ちも湧くのですが、これは極端な状態にしても、確かに自信に満ち溢れリーダー然としている人を周囲は取り巻くものなのかもしれません。
そんな中心的存在であったきりこが、あるきっかけで自分の容姿を気にし始めます。
そして気付くのです。
世の中には「可愛い」の基準があり、自分の顔はその基準の間逆、すなわち「ぶす」であるということに。
ちょうどみんなが「酔い」の冷める、十一歳のことでした。
それからしばらくして、きりこは学校に通わなくなり、閉じこもり、摂食障害になり、過剰な睡眠をとるようになってしまいます。

続きはネタバレしてます。
きっと、この物語をきりこ自身が語るものとして読んだなら、とても重たく暗澹たる気持ちになったでしょう。
それを、きりこが拾ってきたとても賢い猫がユーモラスにやわらげてくれるのです。
一時期IQ740にまで達した(!)、世の中のことも人間の言葉も分かり、話せる(!!)ラムセス2世です。
猫の目から見た人間界、猫の目で見るきりこという人間は、私にはとても新鮮に写りました。

きりこは悲しみ苦しんだ末に、夢で人の「悲しみ」を察知する能力を得、そこからきりこの人生が再び前へ動き出します。
ちせちゃんとの再会。
気付き。

自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらんと思うから。


こうた君との再会。
さらなる気付き。

「容れ物も、中身も、込みで、うち、なんやな。」


ラムセス2世はこう独白します。

私を見つけ、つぶれた鼻で、白玉を投げ出し、犬の点みたいな目をして、私を抱き上げ、難解な歯並びをして、頬ずりし、ずるずると頼りない輪郭をして、ずっと眠って、アゴからすぐ首で、猫たちと話し、悲しさを背負って、喜びに気づいて。きりこの人生。
ぶすの、きりこ。
きりこの、すべてが、きりこ、なのだ!


とても単純明快なことなのだけど、その意味と、きりこがずっと抱えてきた重みとを、ぐっと身近に感じられた瞬間でした。

この物語に出てくる、たくさんの登場人物。
きっとこの一行が最初で最後の登場なのだろうなどと思っていた人達が、終盤にも登場し、その後の様子を知ることが出来ます。
ちせちゃん、元田さん、すずこちゃん、ノエミちゃん、こうた君、みさちゃん、さえちゃん、あずさちゃん、ゆうだい君、押谷さん…。
なかでも、元田さん、押谷さんのことを読んだときには涙が出そうでした。

世界は、肉球よりも、まるい。


この物語も、まるくまるく帰結したのでした。

そうそう。
これからは、猫を見かけたら「可愛い」ではなく「賢い」と言わねば。
そうしたら、あの高貴な生き物は「お、この人間、少しは分かるヤツだな」って思ってくれますかね(笑)
西加奈子 | Comments(0) | Trackback(0)
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