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2012/09/26

「雪と珊瑚と」 梨木香歩

雪と珊瑚と雪と珊瑚と
(2012/04/28)
梨木 香歩

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★★★☆

珊瑚、21歳。生まれたばかりの子ども。明日生きていくのに必要なお金。追い詰められた状況で、一人の女性と出逢い、滋味ある言葉、温かいスープに、生きる力が息を吹きかえしてゆく―。シングルマザー、背水の陣のビルドゥング・ストーリー。
「BOOK」データベースより


ブクログの記録から見ると、読み終わったのがどうやら8月末。
感想は後でじっくり書こうと思っていたら、ひと月もたってしまいました。

思い出しながら、ざっくりとあらすじ。
幼い頃に母親から育児放棄されていた珊瑚が、若くしてシングルマザーとなる。
自分の力だけで生きてきたという自負があった珊瑚が、乳飲み子を抱えて初めて途方に暮れていたとき、くららという女性と出会う。
くららの作る料理に感化され、人に食べ物を提供する仕事をしたいと思うようになった珊瑚は、周囲の協力やタイミングにも恵まれ、カフェを開く、というストーリー。

日々の生活にも精一杯だった若い女性がゼロから自分で店を開き、しかも成功するというのもなんだか現実味がないなというのがまず最初に思った正直な感想。
お店のレシピのほとんどがくららの料理を元にしているわけだし、パン屋の販売のアルバイトのみで料理の世界に飛び込んで、うまくいくものなのかな。
でも、傍目には無鉄砲にも見えるバイタリティや行動力を、少々羨みながら見守りたい気持ちにさせられました。

こんな場面があります。

「それもそうだね。珊瑚さん、それに、今、周り、パートナーだらけでしょう」
「え?」
思いもかけない言葉だったので、珊瑚は思わずきょとんとした。自分の気持ちとしては孤軍奮闘していたのに、確かに言われてみれば、親身に自分のことを考えてくれる人がいつのまにか周囲に一人ならずいる。
「私がうらやましいのは、佐々さんよりむしろ珊瑚さんかな」
由岐は窓の外を見ながら呟いた。


周りには好意で協力してくれる人、親身になってくれる人がたくさん現れるのに、頑として一人で頑張っていると思っている珊瑚。
彼女には人に頼ること、助けてもらうことへの大きな抵抗とわだかまりがあり、一人でやれるというプライド、同情されることへの強い反感、甘えることを浅ましいと恥じる気持ちが心を縛っていました。
それは、育児放棄していた母親からの愛情を受けずに育ったことが心の根っこにあって。
店舗を借りる場面での家主家族への感情、くららとの修道院での施しについての話、物語の端々でその葛藤と逡巡が見てとれます。
食べ物に関する仕事を選んだのも、食べることは生きること、とろくに食べ物を与えられなかった幼少期に身を持って感じていたことが大きいはず。
母親との対峙と過去に向き合うことで、自分なりの折り合いをつけることができて、珊瑚は本当の意味で自立したのかもしれません。

頑固な珊瑚に少し辟易していた私も、美知恵の手紙でガツンとやられました。
美知恵や、すぐにやめたアルバイトの子、アトピーの子と母親だとか、些末なようで実はスパイスの効いた登場人物が出てくるところも、さすがだなーと思います。

本文にもあったように、始めることよりも続けることのほうが難しい。
お店にしろ対人関係にしろ、この先どの方向にも転がっていきそうな、含みを持った終わり方でした。
もし続編が書かれるのなら、珊瑚のその後と成長した雪の物語を読んでみたいな。
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梨木香歩 | Comments(0) | Trackback(0)
2011/11/09

「この庭に―黒いミンクの話」 梨木香歩

この庭に―黒いミンクの話この庭に―黒いミンクの話
(2006/12/13)
梨木 香歩

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★★☆☆

雪が降っている。真夜中に、突然そのことを知った。カーテンを開けると、しんしんと、ただしんしんと、雪が降っていた。梨木香歩、もう一つの「ミケルの庭」の物語。
「BOOK」データベースより


梨木さんの著作は、できればすべて読破したいなと思っています。
無計画さがたたってか、予約本に追われる日々なのですが、合間に小休止を入れたくてこの本を借りてきました。
絵がふんだんに使われていて、児童書のコーナーにあったので、さらっと読めるかと思ったのだけど、うまくつかめない話でした。
梨木さんを小休止に、というのは甘い考えだったなぁと、軽く後悔。

「からくりからくさ」の物語とつながっています。
前にも書いたけれど、あの世界観がちょっと苦手でして。
同じ空気をまとっている感じがしました。
同じくつながっている「りかさん」は好きなのに、どうしてなんだろう。
梨木香歩 | Comments(0) | Trackback(0)
2011/09/05

「村田エフェンディ滞土録」 梨木香歩

村田エフェンディ滞土録村田エフェンディ滞土録
(2004/04/27)
梨木 香歩

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★★★☆

町中に響くエザン(祈り)。軽羅をまとう美しい婦人の群れ。異国の若者たちが囲む食卓での語らい。虚をつく鸚鵡の叫び。古代への夢と憧れ。羅馬硝子を掘り当てた高ぶり。守り神同士の勢力争い―スタンブールでの村田の日々は、懐かしくも甘美な青春の光であった。共に過ごした友の、国と国とが戦いを始める、その時までは…。百年前の日本人留学生村田君の土耳古滞在記。
「BOOK」データベースより



またまた梨木さんの本。
先日読んだ「家守綺譚」で、綿貫に土耳古(トルコ)から手紙を送った、学生時代の友人村田の話ということで借りてきました。
エフェンディというのは、おもに学問を修めた人物に対する敬称だそうで、先生という意味にあたるようです。
妙なタイトルだなと思ったのですが、村田先生の土耳古(トルコ)滞在記、といったところでしょうか。

雑多で多種多様な人間、文化、風習、宗教が入り乱れていた、当時のトルコ。
村田は、そこで出会った人たちと、時に反目しながらも交流を深めていきます。

最初のうちこそ順調に楽しく読み進めて行ったんですが、だんだんとペースダウン。
地理的なことから当時の世界情勢、時代背景、文化、宗教等、話が深くなるにつれ、自分の知識が乏しくて理解に時間がかかりました。

私には難しかったけれど、最後までよんでよかった。

ムハンマドが拾ってきた鸚鵡(オウム)が面白い。
どこで覚えたか、「悪いものを喰っただろう」「友よ」「いよいよ革命だ」「繁殖期に入ったのだな」「失敗だ」の5つの言葉を発します。
まるで人間の言葉が分かるかのように、それはもう絶妙なタイミングで。
このあたりのユーモアが、重くなりがちな話の緩衝材となっていました。
さらにいくつか覚えるのですが、それも物語の重要なポイント。
そして物語最後のひと鳴きに涙があふれました。
ことさら、雪の日で三人が童心にかえったように戯れた様子が浮かんできました。

村田と同じ屋敷に下宿しているギリシャ人、ディミィトリスの言葉は、印象的なものが多かったです。

繰り返すのだ。勃興、成長、成熟、爛熟、腐敗、解体。これはどうしようもないのだろうか。


その善き貧しさを、保つことだな。西の豊かで懶惰(らんだ)な退廃の種を、君たちが持ち帰らないようにすることだ、村田。


はたして、今の日本は。
梨木香歩 | Comments(0) | Trackback(0)
2011/08/23

「家守綺譚」 梨木香歩

家守綺譚 (新潮文庫)家守綺譚 (新潮文庫)
(2006/09)
梨木 香歩

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★★★★

日常にこぼれ出る豊穣な気配。花は人を恋い、水は友を招く――。それは、ついこのあいだ、ほんの百年すこし前の物語。
庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没数多……本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の記録である。――綿貫征四郎の随筆「烏〓苺記(やぶがらしのき)」を巻末に収録。
新潮社HPより



少し前に「りかさん」を読んで以来、梨木さんの本をもっと読んでみたいなと思うようになり、以前から気になっていたこの本を借りてきました。
図書館には単行本もありましたが、文庫版の巻末収録も気になったので、文庫本に。

植物がたくさん出てくること、日常と非日常が入り混じった物語であることなど、既読の「f植物園の巣穴」のように、若干の読みにくさがあるのだろうかと思いながら読み進めました。
が、一話一話が短く、可笑しみもあって読みやすい。
(梨木さんの文と世界観への免疫が出来たのかもしれませんが。)

征四郎の素直で人のよいところがなんとも憎めない。
飼い犬のゴローがとてもかわいい。
隣のおかみさんや和尚も、情があって温かい。
庭の植物や、河童や狸や子鬼も、愛らしい。

不可思議の深みへどんどんはまっていくのではなく、その入り口がいつも覗いていて、知らぬ間にその周辺を出入りしているような、心安さがあります。
しとしとと雨の降りしきる静かな部屋の中で、じっくりと味わいながら読みました。

さりげない一場面のなかで妙に心に残った、次のようなやりとりがあります。

――具合でも悪いのですか。
思わず声を掛ける。
――苦しいのです。吐き気がして。頭が割れんばかり。
――大丈夫ですか。
おろおろして思わずそう云ってしまったが、馬鹿なことを云っていると自分でも思った。見るからに大丈夫ではないし、本人もそう訴えているのに。


言いがちな言葉で、私も何とはなしに馬鹿のように使っているので、恥ずかしくなった。
梨木さんの、言葉に対する真摯な向き合い方を垣間見た気がしました。

「葡萄」の、物語の締め方は秀逸。
温かさと不思議の余韻に浸りながら、本を閉じました。
梨木香歩 | Comments(0) | Trackback(0)
2011/07/14

「りかさん」 梨木香歩

りかさん (新潮文庫)りかさん (新潮文庫)
(2003/06)
梨木 香歩

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★★★☆

リカちゃんが欲しいと頼んだようこに、おばあちゃんから贈られたのは黒髪の市松人形で、名前がりか。こんなはずじゃ。確かに。だってこの人形、人と心を通わせる術を持っていたのだ。りかさんに導かれたようこが、古い人形たちの心を見つめ、かつての持ち主たちの思いに触れた時。成長したようことその仲間たちの、愛と憎しみと「母性」をめぐる書下ろし「ミケルの庭」併録。
新潮文庫HPより



梨木香歩さんの世界観や物の捉え方はとても独特、そして物語によって表情ががらりと変わる。
例えば「エンジェル エンジェル エンジェル」は大好きなお話です。
でも、もうずいぶん前に「からくりからくさ」を読んだ時、正直に言うと面白いと感じませんでした。
本作「りかさん」は、その「からくりからくさ」の物語の前の、ようこ(蓉子)とりかさんのお話。
それもあって、なんとなく読まずにいたのですが、今回たまたま図書館で手にとることになりました。

結果、今の歳になって読めてよかったです。
きっと「からくりからくさ」を読んだ頃の私では、感じることがもっと少なかったように思うから。



りかさんをようこに贈った際の、おばあちゃんの「説明書」には次のように書かれていた。

『ようこちゃん、りかは縁あって、ようこちゃんに貰われることになりました。りかは、元の持ち主の私が言うのもなんですが、とてもいいお人形です。それはりかの今までの持ち主たちが、りかを大事に慈しんで来たからです。ようこちゃんにも、りかを幸せにしてあげる責任があります』


人形には、かわいさの反面、怖さというか畏れを感じることがあります。
その目ですべてを見透かされるように感じたり、実は魂が宿っているのでは、人間が人形に姿をかえているのではと訝ったり。

けれど、「養子冠の巻」も「アビゲイルの巻」も、実のところ人形の恐ろしさではなく、人間の業の深さがもたらす恐ろしさを描いていました。
とくに「アビゲイルの巻」では、そのあまりのむごたらしさに、胸が苦しくなります。

人形に性格を持たせるのは簡単だ。人形は自分にまっすぐ向かって来る人間の感情を、律儀に受け取るから。


人間の都合や欲に翻弄される人形たち。
物語に重ねて、自分自身の過去を振り返り、あの人形はどうしただろう・・・と心穏やかではありませんでした。

それでも、それぞれの巻で、ようこ、りかさん、おばあちゃんが、丁寧に誠実に人形たちと向き合うことによって、救いの道が開かれていくことに、ほっと胸をなでおろしたのでした。

人形には顔があり、目があり、とても分かりやすい対象だけれど、きっとすべてのものに対する接し方、扱い方にも同じことが言えるのでしょう。
たとえば洋服。
雑に扱えば、すぐに傷むし、愛着を持って丁寧に扱えば、日を重ねても風合いとなって長く着られる。
食器も、家具も、家だって、同じこと。
とても当たり前のことだけれど、改めて気付かされたのでした。



併録されている「ミケルの庭」は、「からくりからくさ」を読んでいない人には唐突に感じるかも。
りかさんも登場しませんし。
私も仔細を忘れてしまっているので、また「からくりからくさ」を読み返してみたいような気持ちになりました。
今なら、感じられる部分が増えているといいのですが。
梨木香歩 | Comments(0) | Trackback(0)
2009/11/17

「f植物園の巣穴」 梨木香歩

f植物園の巣穴f植物園の巣穴
(2009/05/07)
梨木 香歩

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★★★★

植物園の園丁は、椋の木の巣穴に落ちた。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、烏帽子を被った鯉、幼きころ漢籍を習った儒者、アイルランドの治水神…。動植物や地理を豊かにえがき、埋もれた記憶を掘り起こす会心の異界譚。
「BOOK」データベースより


返却してしまったので簡単に覚え書き。
梨木香歩さんの本は、10年ほど前に「からくりからくさ」「エンジェル エンジェル エンジェル」「西の魔女が死んだ」を読んだことがあります。
特に「エンジェル エンジェル エンジェル」は、とても心に響いたお話だった記憶があります。

さて、本作はというと、とても読みにくかったです。
かつて読んだ作品が比較的読みやすいものだったので、正直驚きました。
その書き口は、ついてこれる人だけついて来なさい、といっているかのようにさえ感じたほどでした。
まず主人公の男性の口調が硬い。
今よりも少し時代が遡るのかなという角張った印象。
そしてその語られる、夢と現実が、あるいは過去と現在が入り混じったような世界がとても突飛で不可思議で、内容をなぞるのに精一杯。

でも不思議と読むのをやめようと投げ出す気は起きず、時間はかかったけど最後まで読みました。
結末に辿り着いて本当によかった。
無秩序な世界のようでいて、そこにはちゃんと意味があり、すとんと心に落ち着いたのでした。
じんわりとしみ、優しく切ないお話でした。
本文にちらりと出てくる、芋虫が蛹から蝶へと変化し成長するさまが、主人公自身の心の変容と重なり、混濁した液状化の世界から新たな意味を持った現実へと飛躍する物語と重なって感じました。

この物語にはいくつかの穴が出てきます。
木のうろの穴、虫歯の穴、はたまた記憶の穴だったり。
私は常々、どんな穴にも暗くて中がよく見えず、じっとりと湿って、なんとなく吸い込まれそうな得体の知れない空恐ろしさがあると思っていたので、ここで描かれるその心もとない感覚にどきりとしたのでした。
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梨木香歩 | Comments(0) | Trackback(0)
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