「こうふく あかの」 西加奈子
![]() | こうふく あかの (2008/03/27) 西 加奈子 商品詳細を見る |
★★★☆☆
周りから自分がどう見えるかを常に計算しながら、用意周到に順調な人生を送ってきたつもりの39歳、靖男。
その自称完璧主義の男の人生を大きく狂わす計算外の出来事、それば妻の妊娠だった。なぜなら、妻のお腹にいる子は、自分の子どもであるはずがないのだから。
冒頭からそんなおもしろい展開で、思わず話にのめり込んでいきました。
本来なら靖男のように、部下や同僚、妻を軽んじて管理下に置いていると思い込み、特に女性に対して露骨で端的な感情表現を持つ男は、鼻持ちならなくてカチンとくるところです。
でも、そこはさすが、西さんの軽妙でユーモラスな文章から、靖男の小細工めいた画策はどこか詰めが甘くて抜けているように感じられ、その徒労と滑稽さがおもしろいです。
新年会のシーンは目も当てられないほど。
おとなしく従順でつまらない女だと思っていた妻がいきいきとし始め、それに嫉妬を感じ、その嫉妬という感情を持つことに屈辱を感じる靖男。
一つの生命を前に、自尊心や体裁が崩され、それまでの生き方が大きく揺さぶられていく姿がなんとも印象的で心に迫ります。
何をも凌駕してしまう生命の持つ圧倒的な力強さには息を呑むばかり。
そこには厳かさや美しい感動ではなく、生々しい「生」を強く感じました。
靖男の話と並行して、近未来の2039年、アムンゼン・スコットという覆面プロレスラーの話が途中途中で折り挟まれます。
二つの関連のなさそうなストーリーが最後に交錯して、熱気と興奮ともに爽快感を感じました。
ケチャップ、赤いマント、赤い花道、生まれいづる道、たぎる血潮のような色が鮮明に浮かぶようでした。
- [2008/08/10 21:04]
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「ケッヘル」 中山可穂
![]() | ケッヘル〈上〉 (2006/06) 中山 可穂 商品詳細を見る |
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★★★☆☆
少し前に読み終わったのですが、時間がなくて感想を書く前に本を図書館へ返してしまいました。
余裕があればまた借りて、忘れないうちに感想を書ければいいなと思います。
内容と関係のないところで感じたことを一つ。
小説というジャンルの本文中にある太字が、実は苦手です。
小説以外の、たとえば実用書やマンガはまったく意識しないから不思議なんですけど。
この本には太字がときどき使われていて、やっぱり苦手だ!と再認識してしまいました(苦笑)
引用箇所や、紙に書かれていたものの抜き出しの区別のために太字が使われているのは気にならないのに、強調のために一文や語句が太字にされていると気になって仕方がない。
今まで考えたことがなかったのですが、教科書的というか、ここが重要! この言葉はポイント!と指し示される感じがどうもだめなようです。
この「ケッヘル」も、熱中して読んでいても、太字が出てきた途端、気持ちの中で温度が2度くらい下がってしまいました。
お話はとても壮大なスケールで、ドラマチックでおもしろかったのですが、それがとても残念でした。
- [2008/06/11 12:35]
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「チェリー」 野中ともそ
![]() | チェリー (2007/09) 野中 ともそ 商品詳細を見る |
★★☆☆☆
13歳のショウタは、伯父から夏休みにアメリカ行きを誘われます。
伯父所有のアメリカの家に、元妻ベレニスの母親モリーが一人で住み続けており、家を売却するためにモリーに出て行ってもらうのを説得するためです。
ショウタは頼りない伯父に付き添って、アメリカ北西部の「さくらんぼの州」にある伯父の家へ向かいます。
その家は、蛍光がかったミドリ色に塗られ、敷地には瓦礫や異臭を放つがらくたの丘があり、毒のある蔓草がはびこり、家の中も水たまりのできた台所や穴を開けた窓としっちゃかめっちゃかに改造されていました。
モリー自身も黄と黒のミツバチ柄のばかでかいシャツに、不可解な色合いに染まったロングスカートをはき、アヒルのくちばしのようなゴム靴といういでたち。
「魔女たいじ」と勇んでやってきたショウタは、気勢をそがれるとともに、モリーが極度の人見知りで、少女のような心で、自分の世界を崩さずに不器用に生きていることを知り、次第に心を惹かれていくのです。
ショウタ自身は、両親の離婚により住み慣れたアメリカから母とともに日本へ帰国し、鬱屈とした気持ちを抱えて日々を過ごしていたところでした。
日本語よりも英語が得意なことを学校でからかわれ、次第に誰とも口を聞かなくなり、いつもヘッドホンで外界を遮断するようにギャングスタ・ラップを聴きいて音楽で武装する毎日を送っていました。
伯父からアメリカ行きを持ちかけられたのに飛びついたのも、日本での日々から逃れたい気持ち、母にも一人の時間を上げたい気持ちなどがあったのです。
じょうずに居場所を見つけられない人間をいつの間にか引き寄せてしまう、モリー。
ショウタもそんな引き寄せられた人間の一人でした。
- [2007/12/23 23:30]
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「この人と結婚するかも」 中島たい子
![]() | この人と結婚するかも (2007/09/05) 中島 たい子 商品詳細を見る |
★★★☆☆
中島さんは今作までに3冊の既刊本があり、全て読んでいます。
ページ数が少なく文章が読みやすいし、独身女性が主役なことから私にとってテーマが興味深く、心情に共感を持ちやすいのです。
なので、新刊がでるとついつい手が伸びます。
表題作他、めずらしく男性が主人公の「ケイタリング・ドライブ」を収録。
共通項は、独身、勘違い、食べ物。
以下、ネタバレ部分がありますのでご注意ください。
- [2007/12/12 22:12]
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「年に一度、の二人」 永井するみ
![]() | 年に一度、の二人 (2007/03/07) 永井 するみ 商品詳細を見る |
★★★☆☆
永井するみさんの本を初めて読みました。(←これ、しょっちゅう書いている気がします 笑)
印象としては、巧いなぁという感じ。
このお話自体は読後感が爽快とまではいかず、もやもやが残るのですが、それでも永井さんの本をこれからも読んでみたいなと思わせる魅力を感じました。
「もしも、どちらか一方が現れなかったら、それで終わり。」
お互いに相手に無理をさせず、邪魔をしない取り決めのもと、一年後の同じ日に同じ場所で会うことを約束した、男女二組とそれを取り巻く人たちの話です。
「シャドウ」
夫との間に大きな溝ができていて、孤独を感じていた沙和子が、出張で訪れた香港。
ハッピーバレー競馬場にて、門倉という昔仕事で関わった男性に偶然の再会したことをきっかけに、一緒にレースを観戦し、食事を共にする。
そして香港在住の門倉は、来年十月の第三水曜日に同じ場所で会おうと約束する。
それから二人は、年に一度の秘密の逢瀬を重ねること数年。
一人息子の義務教育が終わった今年、自分はどうしたいのか、沙和子が門倉に思いを馳せるところで終わります。
尻切れトンボだなぁと思いつつ、別の男女の話へ。
「コンスタレーション」
OLの夏凛が、旅行で訪れた香港。
そこでたまたま出会った五歳年下でアメリカの大学院に通う学生、朗に半ば強引に連れられ、ハッピーバレー競馬場へ行くことに。
骨董市に行ったり食事をしたり、競馬を観戦したりと一緒に短い時を過ごす。
「実家の近くにいるのが居心地がいいから、離れたくないだけだったりして」
「夏凛さんは余力を持ってる。そんな気がする」
と朗に言われた言葉に、揺さぶられます。
一年後の十月の第三水曜日にまたここで会おうという朗の言葉に、帰国後も心を翻弄される夏凛。
その後親しくなった飯島に安心と安定を感じ、彼となら理想の家族を築けそうだと思いながらも、朗のことが頭から離れません。
飯島から旅行に誘われますが、その日は朗と約束した十月の第三水曜日で・・・。
「グリーンダイヤモンド」
「シャドウ」「コンスタレーション」のそれぞれの登場人物に加え、ハッピーバレー競馬場で働くサムの話を絡めて、物語は十月の第三水曜日を迎えます。
- [2007/11/14 19:29]
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